大阪地方裁判所 平成10年(行ウ)49号 判決 2000年3月29日
原告
山市順造
右訴訟代理人弁護士
鈴木康隆
同
井上洋子
被告
港税務署長 小林佐敏
右指定代理人
石垣光雄
同
原田一信
同
吉原宏尚
同
豊田周司
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 原告の平成四年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間の消費税について、被告が平成八年二月一九日付けでした更正及び過少申告加算税の賦課決定につき、課税標準額一億三五四九万七〇〇〇円、納付すべき税額一二一万九四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額の全部について、これを取り消す。
二 原告の平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間の消費税について、被告が平成八年二月一九日付けでした更正及び過少申告加算税の賦課決定につき、課税標準額八二三九万九〇〇〇円、納付すべき税額四四万一五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額の全部について、これを取り消す。
三 原告の平成六年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間の消費税について、被告が平成八年二月一九日付けでした更正及び過少申告加算税の賦課決定につき、課税標準額六五六七万四〇〇〇円、納付すべき税額一四万一〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額の全部について、これを取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告が被告に対し、被告が平成八年二月一九日付けでした原告の平成四年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間(以下「平成四年課税期間」という。)、平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間(以下「平成五年課税期間」という。)及び平成六年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間(以下「平成六年課税期間」という。なお、以下、平成四年課税期間、平成五年課税期間及び平成六年課税期間をあわせて「本件各課税期間」」という。)の三期分の消費税についての更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下あわせて「本件各処分」という。)の取消し(更正については申告額を超える部分について)を求める事案である。
一 前提事実(争いのない事実等)
原告は、建設業法三条一項に基づく建設業の許可を大阪府知事から受け、「丸徳商会」の屋号で、とび・土工工事業を営んでいる個人であるが、本件各課税期間の消費税の確定申告について、いわゆる簡易課税制度(後記二参照。)の適用を受ける旨の届出をした上、別紙課税の経緯のとおり本件各課税期間の各法定申告期限までに消費税の確定申告をした。なお、原告は、本件各課税期間に対応する所得税については、平成七年一一月一日付けで修正申告書を提出したが、消費税については修正申告書を提出しなかった。(弁論の全趣旨)
しかるところ、被告港税務署長は、原告の本件各課税期間の三期分の消費税について、平成八年二月一九日付けで別紙課税の経緯のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定(本件各処分)をし、原告に通知した。
原告は、本件各処分を不服として、平成八年四月一五日、被告に対し、異議申立てをしたが、被告は、同年七月三日、いずれについても異議申立てを棄却する旨の決定をした(甲三の1ないし3)。
そこで、原告は、同年八月二日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成一〇年六月一一日、いずれについても審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲四)。
原告の平成三年課税期間、同四年課税期間及び同五年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額は別表2のとおりである。
二 関係法令の定
消費税法(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの。以下「法」という。)によると、消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まないものとする。)とされ(法二八条一項)、税率は一〇〇分の三とされている(法二九条)。
そして、法は、消費税の税負担の累積を排除するため、売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除した残額を納税義務者が納付する制度を採用しているが、事業者の事務負担に配慮し、中小事業者については、売上げに係る消費税額を基礎として一定率により仕入れに係る消費税額の控除を計算することができるいわゆる簡易課税制度を採用した(法三七条)。
簡易課税制度においては、事業者が納税地の所轄税務署長にその基準期間(個人事業者については、その年の前々年。法二条一項一四号)の課税売上高が四億円以下の課税期間について、この制度の適用を受ける旨の届出書を提出した場合には、その届出書の提出をした日の属する課税期間の翌課税期間以後の各課税期間については、課税標準額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を控除した残額の一〇〇分の六〇(卸売業その他政令で定める事業を営む事業者にあっては、当該残額に、政令で定めるところにより事業者の営む事業の種類の区分に応じて定められた率、以下「みなし仕入率」という。)を乗じて計算した金額が仕入れに係る消費税とみなされて控除されることとなる(法三七条一項)。そして、右政令で定める率につき、消費税法施行令(平成七年政令第三四一号による改正前のもの。以下単に「令」という。)五七条一項は、第一種事業が一〇〇分の九〇、第二種事業が一〇〇分の八〇、第三種事業が一〇〇分の七〇と規定し、各種事業の内容につき同条五項は「第一種事業とは卸売業を、第二種事業とは小売業を、第三種事業とは農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業(ただし、第一種及び第二種事業に該当するもの並びに加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く。令五七条五項三号かっこ書)を、第四種事業とは第一種事業から第三種事業に掲げる事業以外の事業をいうと規定している。
三 争点及び当事者の主張
本件の争点は、本件各処分の違法性であるが、具体的な争点及びこれに関する当事者の主張は次のとおりである。
1 更正通知書の理由附記
(一) 原告の主張
被告は、平成八年二月一九日付けの各更正通知書及び加算税の賦課決定通知書(甲二の1ないし3)に更正の理由を附記しなかった。
(二) 被告の主張
原告の主張は争う。
2 原告に適用されるみなし仕入率(原告の事業区分)
(一) 原告の主張
(1) 原告の営んでいた事業は、以下の事情からすれば、令五七条五項三号ホに規定する「建設業」に該当し、令五七条五項三号かっこ書にも該当しないのであるから、みなし仕入率は、令五七条一項三号の七〇パーセントが適用されるべきであるところ、被告は、原告の事業は令五七条五項三号かっこ書の規定により第四種事業に該当するとして、みなし仕入率六〇パーセントを適用した違法がある。
ア 建設業の許可
原告は、建設業法三条一項に基づく建設業の許可を大阪府知事から受け、とび、土工工事業を営んでいる者である。
イ 原告の事業実態
原告の事業は、山留支保工、トラックの乗入れ構台の設置・解体工事など、建築作業の過程で、建築作業のために必要な装置を設置し、作業段階が進んで不要になればその装置を解体するという建設工事に必要不可欠な工事が主である。右の山留支保工は、地下を掘削して基礎工事を行うに当たって、周辺の土砂がなだれ込まないようにH鋼を縦横に組み立てて張り巡らす事業であるが、それは原告の工夫と技術力によって達成されるのであり、原告の事業は新たな価値を作り出すものであり、役務の提供とは質的な差がある。
そして、原告は作業のために必要なクレーンを七台所有し、作業過程で使われる消耗工具や材料など大小さまざまなものをすべて原告がその計算で準備し使用している。しかも、クレーンは決して安価なものではなく、原告は、三五トンのクレーンを一台(約三五〇〇万円)、二五トンのものを一台(二五〇〇万円)、五トン以下のものを五台(総額約五〇〇〇万円)所有し、十分に資本を投下している。また、クレーンは山留支保工においては必要不可欠なものであり、単なる補助的な道具などというものではない。
また、主要材料の鋼材(H鋼)を元請業者から無償で提供されているのは、そのような鋼材については、元請業者が保有する方が、保管場所、取得・維持費用、使用頻度などとの関係から経営上の合理性があるからである。
さらに、原告は、人工出し(人材派遣)や役務の提供だけでなく、その行う工事の全般について責任を負うものであり、原告と元請業者との契約においても、仮に請け負った内容の工事完成まで予想外の労力・費用がかかったとしても、その部分の負担は原告が負うことになっている。これが労力・技術の提供である人工出しであれば、実際に使用した人工の分だけ後日元請業者に請求でき、元請業者から対価が支払われることとなるが、原告と元請業者との契約はそれとは異なるものである。
ウ 課税仕入れの実態
原告の場合、平成六年分を例にとると売上金額に対する課税仕入額は、九〇・九パーセントに達しており、右仕入額のほとんどすべては、下請業者への支払である。すなわち、原告は、請け負った事業の九割を下請業者に出しており、この点からしても第三種事業に該当するものである。
(2) なお、原告の事業の中には、第四種事業に該当する人工出しもあるが、取引先や丸徳商会などの支払明細書、注文書、請求書など関係書類から、原告の事業において第三種事業に分類される事業と第四種事業に分類される事業は明確に区分されている。したがって、原告は、令五七条四項三号の「第四種事業に係るものであるか第四種事業以外の事業に係るものであるかの区分をしていないものがある場合」にも該当しない。
また、原告の事業全体の売上に占める第三種事業の売上げの割合は、平成四年課税期間については九四・四パーセント、平成五年課税期間については九四・三パーセント、平成六年課税期間については九四・一パーセントであり、七五パーセントを超えており、第三種事業のみなし仕入率が適用される(令五七条三項三号)。
(二) 被告の主張
原告の営む業種が令五七条五項三号ホの建設業に当たることは認めるが、原告の営む業種は、次のとおり、同号かっこ書の「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当する。
(1) 令五七条五項三号かっこ書の規定する「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」が第三種事業から除外されたのは、この事業は主要原材料等を他の者から提供を受けているため、課税売上げに占める課税仕入れの割合が第三種事業に比べて低いと認められるからであり、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」とは、対価たる料金の名称のいかんを問わず、他の者の原料若しくは材料又は製品等に加工を加えて、当該加工等の対価を受領する役務の提供又はこれに類する役務の提供をいうと解すべきである(平成七年一二月二五日付け課消二一二五・課所六一一三・課法三一一七・徴管二一七〇・査調四一三による改正前の平成三年六月二四日付け間消二―二九国税庁長官通達第二章第一節「事業の区分」4)。
そして、建設業においては、他の事業者の原材料を使用し、当該他の事業者の建設工事の一部を行う人的役務の提供がこれに該当し、通常、受託者が自ら調達する補助的な建設資材(釘、針金、接着剤、道具又は建設機械等)を受託者が調達して行っても、他の主要な原材料の無償支給を受けて行う場合には、加工賃等を対価とする役務の提供に該当する。
また、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」に当たるか否かは、当該事業主が行っている事業のうち、付随的な事業について判定するのではなく、その中心的な事業を対象に判定すべきである。
(2) 原告の事業の中心は、山留支保工であり、構台や仮橋(以下「構台等」という。)の設置・解体は山留支保工に付随するものにすぎないので、山留支保工について検討すると、山留支保工は、H鋼を組立ててそれを縦横に張り巡らせることによって、土砂がなだれ込むのを防ぐ杭を支える工事であり、H鋼が高価なものであることから、H鋼が主要材料であり、これらのH鋼は原告が元請業者から支給を受けているものである。そして、山留支保工においては、原告は、H鋼に溶接等の工作をし、これらの工作がH鋼自体の価値を高めるわけではないが、H鋼を組み立てて縦横に張り巡らせることによって、杭を支えて土砂がなだれ込むことを防ぐという山留支保工の目的を達していることから、右組立ては、「対価たる料金の名称のいかんを問わず、他の者の原料若しくは材料又は製品等に加工を加えて、当該加工等の対価を受領する役務の提供又はこれに類する役務の提供」の「加工等」に該当する。
なお、構台等の設置や解体は山留支保工に付随するものであって、山留支保工と別個のものとして、業種区分を第三種事業か第四種事業かと分けて考えることはできないが、仮に分けて考えたとしても、原告の行う構台等の設置・解体工事においては、原告は元請業者から主要材料である構台等の支給を受け、これを架設・解体し、これに対する料金を対価として受けとっており、構台等の設置・解体工事が「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当し、第四種事業に該当することは明らかである。
(3) ところで、原告は、山留支保工において、消耗工具や溶材等の材料、大形移動式クレーン等を負担しており、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」ではない旨主張するが、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」に当たるか否かは、他の者から主要原材料の提供を受け、これに加工等を加えて、当該加工等の対価を受領する役務の提供を行うか否かで判定すべきであって、補助的な資材や道具を誰が所有するかとは無関係である。そして、原告の主張する施工に必要な溶材等の材料は補助的な建設資材にすぎず、クレーンも道具にすぎない。
また、原告は、工事につき責任を負っていたこと、契約における危険負担を負っていたことを第四種事業に該当しない根拠として主張するが、施工者が自ら分担する工事について全般的に責任を負うことは、建設業では当然のことであり、契約における危険負担を負っていたことも「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当するか否かとは無関係である。
(4) さらに、原告は、原告が請け負った事業の九割合を下請けに出しているとして、自己が請け負った建設工事の全部を、下請けに施工させる建設工事の元請は第三種事業に該当するものとして扱われるとの通達(平成七年一二月二五日付け課消二一二五・課所六一一三・課法三一一七・徴管二一七〇・査調四一三による改正前の平成三年六月二四日付け間消二―二九国税庁長官通達第二章第一節「事業の区分」5(2))の適用を主張するが、右通達は、他の事業者に一括下請けさせた場合についてのものであるところ、原告は、工事の全部を他の業者に一括して下請けさせてはいない。
なお、原告の平成六年分の所得税青色申告決算書の第二面には、原告の主張する仕入金額はすべて「歩合報酬」という名目で記載されており、これは、形式的には原告の従業員ではないが、原告の下に働きに来ている者に対し、その勤務日数、仕事量に応じて支払っている報酬であり、実質的には労務費に該当するものであり、原告の請け負った工事を施工させる下請業者に対する支払ではない。
(5) なお、原告は、原告における課税仕入れの実態から原告の事業が第三種事業に当たるとも主張するが、簡易課税制度については、課税標準額に対する消費税額の一定割合を仕入に係る消費税と「みなす」(法三七条一項)と規定されていることから、事業者が簡易課税制度を選択した以上、簡易課税制度により算出された税額は、実額による仕入れに係る消費税額がいくらであるかによって影響を受けないものである。そして、原告は、実額による控除ではなく、簡易課税制度を選択したものであるから、原告の売上金額に対する仕入金額が実額において何パーセントであるかは簡易課税制度における税額には影響を及ぼさない。
第三当裁判所の判断
一 前記第二、一の事実、証拠(甲一、五の1ないし86、六の1ないし55、七の1ないし69、八、九、一〇の1ないし3、一一、一二の1ないし5、一三、乙三ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、原告の事業形態につき以下の事実が認められる。
原告は、建設業法三条一項に基づく建設業の許可を大阪府知事から受け、「丸徳商会」の屋号で、とび・土工工事業を営んでいる個人である。
原告の行う事業は、山留支保工と呼ばれるもので、建築物を建てるために地下を掘削して基礎工事をする際に、土砂がなだれ込まないように周囲に杭等を打ち込んだものが、掘削の進行にしたがって周りの土砂からの圧力により倒壊することを防ぐために、H鋼を縦横に張り巡らして右杭等を支える工事であり、必要が無くなった場合には右H鋼を解体し、大規模な工事においては、必要に応じてクレーン等を乗せる構台等を架設・解体する工事が含まれる場合もある(以下、これらの業務を合わせて「山留支保工等」という。)。
そして、原告は、右山留支保工等の業務を行うに当たり、H鋼や構台等の重量資材のほか、ボルト、履工鉄板、アングル材、チャンネル材等は元請業者などから無償で提供を受け、自らは、工具の他、アセチレンガス、酸素ガス、溶接棒などの消耗品、補助的材料を負担し、自ら所有するクレーンを用いて山留支保工等を行い、原告が支払を受ける工事代金は、工事の難易度も勘案されるものの、基本的には主要材料の重量(トン数)にトン当たりの単価を乗じた額とされている。なお、原告は、少なくとも四台の移動式クレーン及び一台の油圧式ショベルを所有している。
ところで、原告の本件各課税期間における課税資産の譲渡等の相手方である取引先及び取引額は、別表2のとおりであるが(争いのない事実)、ヒロセ株式会社、株式会社岡本工務店及び薮本鐵工株式会社との取引の全て並びに大富工業株式会社との取引の一部が前記山留支保工等に該当し、大富工業株式会社との取引の一部並びにボリスエンジニアリング株式会社、株式会社進栄重機建設、サイガ運輸機工株式会社及び日本基礎技術株式会社との取引の全てが人工出しと呼ばれる純粋な役務の提供に該当する。なお、原告の課税資産の譲渡等の対価の総額に占める山留支保工等に係る課税資産の譲渡等の対価の総額は、平成四年課税期間においては約九四・九パーセント、平成五年課税期間においては約九四・三パーセント、平成六年課税期間においては約九四・一パーセントである。
二 原告に適用されるみなし仕入率(原告の事業区分)について
1(一) 法三七条は、事業の種類ごとのみなし仕入率の政令への委任に当たり、みなし仕入率を「当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して」定める旨規定し、右規定を受けて、令五七条は、前記第二、二のとおり事業の種類を四つに区分し、みなし仕入率をそれぞれ第一種事業が一〇〇分の九〇、第二種事業が一〇〇分の八〇、第三種事業が一〇〇分の七〇、第四種事業が一〇〇分の六〇と規定している。
この分類を、課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合の観点からみると、第三種事業は、第一種事業である卸売業、第二種事業である小売業と比較すると一般的に課税仕入れ等の税額の割合が低いが、第四種事業に典型的に該当すると解される飲食店、金融・保険業、不動産業、サービス業に比較すると一般的に課税仕入れ等の税額の割合が高くなり、これを逆からみると、第一種事業から第四種事業になるに従い、一般的に課税資産の譲渡等の対価に対する課税仕入れ等に含まれない費用(給与等)及び利益の額の割合が高くなるものといえる。
そして、簡易課税制度は、中小事業者の負担を軽減するために、法三〇条以下の実額による課税仕入れの煩雑な算定をさけるために、具体的な事業者の個別性による差異を捨象し、右のように当該事業の一般的な課税仕入れの態様に応じて類型化した事業区分を用いてそれぞれみなし仕入率を定め、簡易に当該課税期間における仕入れに係る消費税額を算定することを可能にしたものと解される。
(二) 本件においては、原告の事業が原則第三種事業とされる令五七条五項三号ホの建設業に該当することは争いのない事実であり、同号かっこ書の「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当するか否か、すなわち、該当して第四種事業に区分されるか否かが争点であるが、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」の意義も右(一)の観点から判断すべきである。
右観点からすると、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当する事業とは、主要原材料等を他の者から提供を受けているため課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合が第三種事業に比べて一般的に低いと認められるものであって、これを建設業においてあてはめると、他の事業者から主要原材料等の提供を受け、当該他の事業者の建設工事の一部を行う人的役務の提供を行う事業であって、自らが課税仕入れによって得て使用する材料、工具、建設機械等の補助的な建築資材の調達費用の割合が一般的に建設業一般より低い事業がこれに当たるというべきである。
2 これを原告の事業についてみるに、原告の行う事業のうち九割以上を占める山留支保工及びそれに付随する構台の架設・解体工事は、元請業者等が行う建設工事の一部をなすものであって、H鋼等を主要材料として、これをクレーンで移動しつつ、アセチレンガス、酸素ガス、溶接捧等を用いて組み立て、必要に応じてクレーンやトラックの構台等を架設・解体する事業であるが、原告は、その主要材料であるH鋼等を元請業者から支給されており、自らが課税仕入れによって得て使用する材料、工具の額は、低いものであり、しかも、原告が取得する工事代金額が主として主要材料の重量によって決定されることをも併せ考慮すると、その中心は、人的役務を提供するところにあると認められる。この点について、原告が使用するクレーンの当初の購入価格は相当に高額なものであったと推認され、当該設備投資を行った日の属する課税期間については、仮に実額によるならば、その課税仕入れに係る税額が課税資産の譲渡等に係る消費税額に対して占める割合が他の建設業に比較して必ずしも顕著に低いものとは断言できないところであるが、これを簡易課税制度における一般的、類型的な観点からみるならば、クレーン等の重機は固定資産として複数年に渡り使用されるものであり、毎課税期間に常に設備投資が行われるものではないのであるから、ある課税期間における重機の購入が、その後数年に渡る使用の過程で、後続の各課税年度の売上高にどの程度寄与したかという観点から検討するのが合理的であると解される。そして、右の指標としては、減価償却費の平均値が考えられるが、甲一一号証によれば原告の平成六年課税期間における減価償却費は四五九万七〇三六円であることが認められ、その額は、当該課税期間における課税資産の譲渡等の対価の総額である二億四七二二万一三四〇円に比較して少額であり、他の課税期間においてもその割合は近似するものと推認することができるのであるから、原告がクレーンを自ら所有することから原告の行う山留支保工等が「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に当たらないということは相当ではない。また、事業者は、実額による仕入税額控除と簡易課税制度を選択することができるのであるから、右の様に解しても事業者に不当な不利益を課すものではない。
そして、右結論は、原告が建設業の許可を受けた建設業者であるか否か、自らが請け負った工事全般について責任を負うか否か、契約において危険負担を負っているか否かとは何ら関係が無いものである。
3 ところで、原告は、自己が請け負った建設工事の全部を、下請けに施工させる建設工事の元請は第三種事業に該当するものとして扱われるとして、通達(平成七年一二月二五日付け課消二一二五・課所六一一三・課法三一一七・徴管二一七〇・査調四一三による改正前の平成三年六月二四日付け間消二―二九国税庁長官通達第二章第一節「事業の区分」5(2))の適用を主張する。
そこで、右通達の意義を検討するに、右通達は、第三種事業はおおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基準に判定されるところ(同通達第二章第一節「事業の区分」2)、右分類によると建設業に含まれない「自己が請け負った建設工事の全部を、下請けに施工させる建設工事の元請」も他の事業との権衡及び課税仕入れの実態等を考慮して、簡易課税制度の適用においては第三種事業に該当するとした取扱いであると解され、そして、右通達が「全部」と規定していることから明らかなように、事業者が受注した建設工事を下請けに全て一括して行わせる場合を意味すると解される。
しかるところ、原告の事業形態は、前記のとおり、自らが請け負った建設工事を一括して下請けに行わせるものではなく、原告がクレーンを所有し、消耗工具や材料を自らの計算で準備するものであり、さらに、平成六年の所得税青色申告決算書(甲一一、乙五)によると、平成六年課税期間において、原告が行っている下請けは、歩合報酬によっており、実質的には人件費と解され、平成四年課税期間及び平成五年課税期間についても同様であると推認されるのであるから、結局、原告の主張する下請けは、前記通達が適用される形態のものとは異なると解される。
4 以上からすると、原告の営む事業は、第四種事業に該当するというべきであり、そのみなし仕入率は一〇〇分の六〇が適用されることとなる。
なお、原告は実額による仕入税額控除をも主張するものと解する余地があるが、原告は、簡易課税制度を選択したものであり、右選択をした以上、原告の課税仕入等の合計額は、当該課税期間の課税標準に対する消費税額から法定の控除をした後の金額にみなし仕入率を乗じたものとみなされる(法三七条一項)のであるから、実額による控除は許されないというべきであって、原告の主張は採用できない。
三 本件各処分の適法性ついて
1 理由附記について
原告は、被告が、更正通知書及び加算税の賦課決定通知書に更正の理由を附記しなかった違法があると主張するが、消費税法、国税通則法上、消費税の更正に理由の附記を要求する規定はなく、行政手続法第三章の規定は適用されない(国税通則法七四条の二)から、結局、消費税の更正につき更正の理由を附記すべき旨を定めた法令の規定はなく、原告の右主張は採用できない。
2 本件各更正について
前記二の判断を前提に原告の納めるべき課税標準額及び納付すべき税額を算定すると別表1のとおりとなる。
そして、本件各更正処分に係る課税標準及び納付すべき税額は、いずれも右範囲内であるから、本件各更正は、いずれも適法である。
3 本件各賦課決定について
原告は、各課税年度の納付すべき税額を過少に申告していたものであり、過少に申告したことに国税通則法六五条四項に規定する正当な理由は認められない。
そして、各課税期間の過少申告加算税の額について検討すると、平成四年課税期間については、原告の納付すべき消費税額三三七万円と期限内申告税額一二一万九四〇〇円との差額である二一五万円(一万円未満切り捨て。国税通則法一一八条三項)に一〇〇分の一〇を乗じて計算した金額二一万五〇〇〇円(同法六五条一項)に、二一五万円のうち、一二一万九四〇〇円を超える九三万円(一万円未満切り捨て。同法一一八条三項)に一〇〇分の五を乗じて計算した金額四万六五〇〇円(同法六五条二項)を加算した二六万一五〇〇円、平成五年課税期間については、原告の納付すべき消費税額二八〇万五七〇〇円と期限内申告税額四四万一五〇〇円との差額である二三六万円(一万円未満切り捨て。同法一一八条三項)に一〇〇分の一〇を乗じて計算した金額二三万六〇〇〇円(同法六五条一項)に、二三六万円のうち、五〇万円を超える一八六万円に一〇〇分の五を乗じて計算した金額九万三〇〇〇円(同法六五条二項)を加算した三二万九〇〇〇円、平成六年課税期間については、原告の納付すべき消費税額二八八万〇二〇〇円と期限内申告税額一四万一〇〇〇円との差額である二七三万円(一万円未満切り捨て。同一一八条三項)に一〇〇分の一〇を乗じて計算した金額二七万三〇〇〇円(同法六五条一項)に、二七三万円のうち、五〇万円を超える二二三万円に一〇〇分の五を乗じて計算した金額一一万一五〇〇円(同法六五条二項)を加算した三八万四五〇〇円となる。
そして、本件各過少申告加算税賦課決定の加算税額は、いずれも右範囲内であるから、本件各過少申告加算税賦課決定は、いずれも適法である。
第四結論
以上のとおり、本件各処分はいずれも適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三浦潤 裁判官 林俊之 裁判官 栗原三緒)
別紙
課税の経緯
<省略>
別表1
納めるべき消費税額の計算書
<省略>
別表2
原告の課税資産の譲渡等の対価の額
(売上金額)
<省略>